カフェラルゴの夏

カフェラルゴのオーナー兼マスター、そしてギタリストでもある多(おおの)さんは、どんなに忙しくても絶対に手を抜かずに一杯ずつ丁寧に時間をかけてコーヒーを淹れてくれる。
その姿から学ぶところは大変多い。

 

ある暑い夏の日。

 

汗を拭き拭き入ってきたオバちゃんがアイスティーを注文。

多さんはアイスティーも注文を受けてからまずは熱い紅茶を心をこめて丁寧に丁寧に時間をかけて濃い目に抽出して、氷で冷やして提供している。

 

お客様に最高の物を味わっていただこうというその姿勢、一期一会のお客様へ注がれるこの愛情・・・これはもはや「アイスティー」を超えた「愛すティー」ではなかろうか?

私の目から感動の涙までが抽出されようとしたその時、あろうことかこのオバちゃんは

 

「ちょっとー!アイスティー一杯出すのに何時間(注:もちろんまだ5分ぐらしか待ってない)かかってんのよぉ!!」

 

と辺り構わず大声で怒り出したのであった。

 

多さんは

 

「すみません!すみません!」

 

と大きな躰をもうこれ以上できないぐらい小さく縮め、ひたすら謝り続けながらも抽出している手を休めず、かといってその速度は決して上げようとはせず、ご自身の信念を貫きながら仕事をこなしていた。

 

オバちゃんの狼藉に耐え兼ねた私はやおら席を立ちあがり、プリプリ怒っているオバちゃんに歩み寄り

 

「おい!あんた、マスターのあの仕事ぶりが見えねえのか!お前なんぞそこらのコンビニでペットボトルの『午○の紅茶』でも買って飲みやがれ~!」

 

と首根っこをつかんで店の外へつまみ出・・・せたらどんなに気持ちいいだろう、と思いながら、多さんと同じぐらい小さく縮まって、カフェラルゴのメチャクチャ美味しいアイスコーヒーをおとなしくちびちびとストローで吸い上げていたのであった・・・

 

ああ、春が過ぎてまた夏がやってきたら、カフェラルゴにアイスコーヒーを飲みに行こう・・・。