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関東幻想奇譚 

今朝早く家を出た私は当てもなく旅に出た。気ままに電車を乗り継ぎ、都心とは逆方向にどんどん向かっていくと、千葉県のある町にたどり着いた。

 

ここは「カーマ・ガーヤ」と呼ばれる一帯であるそうだ。

 

ウィキペディアによるとカーマ・ガーヤとは、スラヴ民話に登場する妖婆のことで、各種の民話で語られるほか、芸術分野ではムソルグスキー作曲の組曲『展覧会の絵』の1曲「カーマ・ガーヤの小屋」で知られる。

(*画像は「カーマ・ガーヤの小屋」資料提供:ヤーマシーナ商事)

 

 

 

ここの住民たちはよそ者である私に対して警戒する様子を隠そうともしなかった。

 

朝食をたべようと通りかかったイセーヤーなるハーツ・トーミ駅前の甘味店でおにぎりを買ったのだが、代金を支払うまで頑として品物を渡してくれなかったほどだ。

 

 

 

この町にはいくつもの路線の線路が縦横無尽に張り巡らされていて、外部からの侵入者が簡単には入ってこれないようなシステム作りに成功している。

 

同時に、住民たちが安易に外界に出られないようなシステムにもなっている。

 

彼らは「単なる交通渋滞」というが、そんな子供騙しの嘘を信じるほど私も坊やではない。

 

さすがあの新興宗教「スマイルベア教団」の本拠地があると噂されるだけの土地柄である。

 

 この町には美味しい食堂が多いのも特徴的である。

一度食べたら忘れることの出来ない味、しかし頻繁に訪れるほど歓迎はされない…私は試されているのか?フージ・カーワの美味しいうなぎを食べながら私の心は揺れるのであった。

 

 

*カーマ・ガーヤにあるヤーマ・シーナ商事さん。ヤーマシーところは微塵もない素晴らしい優良企業である。




*何やらすっかり恒例のある集会が行われたようである。

という調子で、始まったばかり関東幻想奇譚だが、いきなり終わりを迎えることになった。

 

理由は、あまりこの町について深く関わるなと警告が来たのだ。

 

その警告はあまりにも大きく私の目に飛び込んで来た。

 

カーマ・ガーヤ・セレモという謎の組織による電話番号を装った恐ろしい警告に私は震え上がった。命の危機を感じた私は一心不乱に歩きハーツ・トーミ北駅を目指した。

 

バレていたのだ。私の稚拙な嘘など奴らにはすっかりお見通しだったのだ!

 

実は私は偶然この町にたどり着いたのではない。すでに7年ほど前から年に一度この町に来て諜報活動をおこなっているのだ。

 

こうなっては仕方がない。ダメもとで「カーマ・ガーヤの寺子屋」に突撃するしかない。

 

 おそらくムソルグスキーのあの名曲のオマージュとして名付けられたであろうヌードルレストラン「カーマ・ガーヤの寺子屋」には、2年前に地元のレジスタンスの一員であるピーウラ・ヤスアキフスキーの手引きで、侵入に成功していた。しかし昨年は「スープが終了した」という謎のメッセージを貼り付け、そのシャッターをついに開けようとしなかった。

 

 勝算は無いが、意を決した私はわずかな可能性を信じて足を速めた。

 

出発して25分後、思い荷物を持ってひたすら早歩きした私はとうとう「カーマ・ガーヤの寺子屋」にたどり着いた。

 がしかし、予想外の結末にその場で崩れ落ちた。なんと土・日・祝日の夜の営業はやめてしまったのだ!

 

そうなのだ。そもそも、もう最初から私には勝ち目などなかったのだ。

私の行ける時間に営業しないカーマ・ガーヤの寺子屋、踏み切りがなくなったのに依然として渋滞のなくならない道路…この町は完全に私を排除することに成功したのだ。おそらくこのままカーマ・ガーヤ大仏のあの美味しいうどん屋に戻っても、私を嘲笑うようにシャッターを下ろしていることだろう。

 

だいいち、ラーメンに傾いた気持ちをうどんに立て直すには時間も気力も不足している。






高架鉄道になったハーツ・トーミ北駅。煌々と灯りがついているのにひとっこひとりおらず、かえって寂しげだ。

 

こうして私は2年連続で向かいのライラ・イテーイというレストランでラーメンを食べたのであった。

 

千葉の秘境、カーマ・ガーヤ。私の後をついで活動してくれる同志にはライラ・イテーイのポイントカードを進呈するので、是非立候補してくれたまえ。

 

以上です!編集長~~!!