老眼狂騒曲 その3 「眼鏡店の中心で愛を叫ぶ」

「どうされました?」

 

店員さんは私のただならぬ焦りをみて心配そうに言った。

 

「あ、あの…すいません、もっと安いのないっすか?…すんません」

 

“すんません”と言ってしまったがもはやそんなことはどうでも良かった。

 

「当店の商品は16800円からになりますが…」

 

「で、でも“眼鏡市場”っすよね、実は成増に、成増ってご存知ですよね?で、そこに

下赤塚センパイっていう人が住んでいてそのセンパイが…」

 

私は店員さんにセンパイの武勇伝を話した。信じてもらえないかもしれないと思い、震える手で財布をこじ開け、センパイからもらった割引券を見せた。

 

「あぁ、これはALOOKさんが入っている店舗ですね。」

 

店員さんは納得がいったようで、店名は同じだが同じ系列ではないことを説明してく

れた。

 

「で、今月末まで使えるからセンパイが是非キンちゃんも、あ、キンちゃんってぼくのことなんですけど、キンちゃんも老眼鏡作れーっ!って…」

 

「はい、確かにこの割引券は来年の3月末日まで使えるものですね」

 

えーっ!来年の3月まで?!センパイも私も「2018年」という期限にまったく気がつかなかった。こういうミスはその日その日をやっと生きている「中年おじさんあるある」のひとつに違いない。

 

その後、店員さんは嫌な顔一つせず親切にも、そのALOOKとやらが入っている近辺の店舗の情報を調べてプリントアウトして渡してくれた。

検眼料だけでも払うと言った私ににっこりと笑顔でその心配はないことを伝えてくれてた店員さんには感謝しかない。

私の人生の目標リストに、「いつの日かビッグになったらフェラーリに乗って、この眼鏡市場に来て16800円の老眼鏡を作る」を加えさせてもらおう。ありがとう、眼鏡市場!

 

私は感動の涙を流しながら、逃げるように眼鏡市場を去った。(続く)→その4