老眼狂騒曲 その2「私を眼鏡店に連れていって」

 

“つい最近、お母さんに連れられて下赤塚の「眼鏡市場」で老眼鏡を一気に二つも作った”という下赤塚センパイの武勇伝をしっかり聞き、自宅からほど近い「眼鏡市場」に勇気をもって突入。

何といっても眼鏡店に入るのは人生で初めて、敬愛するセンパイの様に母と一緒に来ればよかったと激しく後悔した。

 

「今日はどのようなものをお探しですか?」

 

…来た、店員来た。落ち着け!自信を持って答えるんだ!

 

「ろ、ろ、老眼鏡を探して…るような探してないような…」

 

「検眼からのご購入でよろしいでしょうか?」

 

「よ、よろしくお願いすます」

 

・・・い、いかん、「すます」と言ってしまった…。

しかし滑舌が悪いのが幸いして気が付かれなかったようだ。

よし、まだ運は尽きていないぞ!

 

この後、丁寧な検眼をしていただいたが、幸い老眼以外にはほとんど問題がなかったようで、視力も1.5はあるそうだ。

これまで努力を惜しまず、一生懸命に、自分の人生から勉学を出来る限り排除してきたことによる、この素晴らしい成果を誇らしく思い、俄然勇気が湧いてきた。

検眼の後半では出てきたひらがなもハキハキと答えられたと思う。母がいればきっと褒めてくれたであろう。

度数を合わせせるためにレンズを入れ替えられる眼鏡をかけて記念撮影を出来るまでに心に余裕が出てきた。

 

「それではフレームをお選びになってください」

 

私は余裕の足取りで店内をゆっくり歩きフレームを、いや正確には値札を見て回った。

 

しかし、何かがおかしい。

 

店内を何周してもどれも一万円台後半からそれ以上のものばかりなのである。

下赤塚センパイが作った二つの老眼鏡はそれぞれ5000円ぐらいのものと高いほうで9000円ぐらいのものだったはずである。

次第に焦ってきた私は店名を何度も確認した。

 

いや、間違っていない!どうなっているのだ!

 

やはり私のような眼鏡初心者がひとりで眼鏡店に入るのは危険だったのか!

 

「す、すみませ~ん!」

 

私は泣き声を上げないように必死の努力をしながら店員を呼んだ(続く)→その3