· 

アポヤン道ハードボイルドシリーズ 「ギターラ弾くべし2・大塚⇔香港編」

20代前半の数年間、まだわたしが組織の運び屋として都内の焼肉屋にコメやごま油、豆もやしにぜんまい、乾燥冷麺などを軽トラックで配達していた地のひとつである「オーツカ」にセニョール吉住のアジトはある。

 

ここで生まれ育ったセニョールは「オーツカ」を「日本のグラナダ」と呼んでいるが、もちろんグラナダとは似ても似つかない、どちらかというと東南アジアの繁華街を思わせる商店街の奥は密かにアジトを構えるにはとても都合がいい。

 

今回も前日に

 

「アス ジョウモノ クル」

 

とFacebookでメッセージが送られてきたが、ちょうど今晩「タキノガワ」でのミッションがあるので、セニョールと会った後しばらくカラオケBOXに身を潜め、時間になったら都電で移動すればいい。

「オーツカ」から「タキノガワ」までの所要時間はわずか8分、完璧だ。

 

尾行を警戒し、わざと寝坊をしたり電車に乗り遅れたり、傘を置き忘れたりしながら約束の時間より30分遅れてセニョールのアジトに到着すると、天才贋作師クリリンが先に到着していた。

昨年の今頃「木ペグのトーレスをトレースした男」としてギターラ商たちを恐怖に陥れたあのクリリンである。

 

「旦那、今度のも驚きですぜぇ」

 

セニョールが指さしたギターラスタンドを見て、思わず私は息をのんだ。

 

「は、ハワジャーか?しかもハワジャーⅠ世ではないかっ!」

 

私は動揺を隠せず震える手でギターラを手にとった。

 

「た、たしかにいい面構えだ・・・」

 

私がそう呟くとクリリンがにやりと笑った。

近代ギターラの歴史の影で、常にヤミレス家と抗争を繰り広げてきたハワジャー家の、しかもⅠ世のモデルにいよいよ手をだしてしまったのか。手を出してしまったとなれば、あのハワジャー家が我々を放っておくはずはない。

彼らにとっては過激派組織である「ハカランダ」や「imim」、諜報機関「アサド」すら動かすのはたやすいはずだ。既に現在の当主であるⅢ世とⅣ世、最近産まれたばかりと噂を聴いているⅤ世が我々に向けて刺客を送っている可能性がある。

 

その時であった。

 

「あ~っ!!だ、旦那っ!!」

 

突然セニョールが叫び声を上げた。

 

「ノーアポステッカーが!ノーアポステッカーが~っ!」

 

セニョールが口から泡を吹きながら指差した赤いGewaケースを見ると我々の組織の公式ステッカーが無残にも破られ剥がされていた。

これはハワジャー家からの警告なのか?!

 

「ここは危険だ!とりあえず香港に飛んで身を隠そう!」

 

私たちは着の身着のままアジトの斜めむかいにある中華料理「香港市場」に飛び込み、ランチで賑わう客の中に紛れて、監視の目をそらすためわざと別々のメニューを頼んだ。

 

二階の丸テーブルで相席させられた怪しいカップルを警戒しすぎて、食事はなかなか喉を通らなかったがついに全員が完食し、気がつけば二階は我々3人だけになっていた。

 

「もう追っ手はこないだろう…仕事に取り掛かろう。」

 

私たちは海鮮ラーメンやら海老玉子炒めやら酢豚で膨れた腹をさすりながらアジトに戻り、極秘映像の撮影を開始した・・・以上です!編集長~!!