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アポヤン道ハードボイルドシリーズ 「ギターラ弾くべし・雑司ガイア編」

わたしはアポヤンドの聖地であり秘密基地である、雑司ガイアにいた。

 

セニョール吉住が裏工作をして今日から始まる弦楽器フェア2015で公開直前のギターラを一本、数時間だけ確保したとの連絡を受けたからだ。

 

わたしは細心の注意を払い、もしも尾行がついていた場合を考えて、池袋駅から勘違いをして護国寺を目指して有楽町線に乗り、東池袋でそれに気がついたふりをして、大急ぎで反対側のホームから逆方向の電車に乗り、乗り換えのスムーズさを考えてあえて要町まで戻って副都心線に乗るという完璧な経路をたどった。

 

念を押しておくが、すべて計算の上である。

 

最大限の警戒をしながら雑司ガイアに到着するとすでにセニョール吉住と、ギターラの製作者であるクリリンがわたしを待っていた。

 

「今度のはいつにも増して上物ですぜ、だんな」

 

とセニョール吉住がニヤニヤしながらギターラのヘッドを指差した。

わたしは一瞬目を疑ったが、最近のセニョールの言動を思い出して納得した。

 

木ペグである。

 

わたしは適度に圧力をかけて押し込みながらペグを回しチューニングをした。

 

「良い感触だ・・・」

 

わたしの言葉に木ペグ初挑戦のクリリンはにやりと笑った。

 

「さぁ始めるとしますか!」セニョールの掛け声でわたしはギターラを持って椅子に座った。

 

しかしその瞬間にようやく我々は自分たちが犯した決定的なミスに気がついた。

 

「あ、足台がない…」

 

わたしたちはなすすべもなくただ立ち尽くすのであった。

 

わたしは気を取り直し秘書でもある妻に電話をした。

 

「ハニー!事件だ!」

 

わたしが状況を説明すると妻は突然

 

「ダーリン、タンゴトリオのトリアングロでの韓国大使館での演奏を覚えているかしら?」と言ってきた。

 

女という生き物はまったくいきなり何を言い出すのだろう。

こんな状況で昔ばなしをするために電話をしたのではない。

わたしは少しいらいらしながら答えた。

 

「あぁ、覚えているさ、演奏をするパーティー会場と楽屋が離れていておまけに警備も厳重だから移動が大変だった…あっ!」

 

「思い出したようね、あなたはあの時足台を楽屋に忘れたんじゃなかったかしら」

 

「まさか、わたしにまた“あれ”をやれというのか?」

 

「もちろんあなた次第よ」

 

「…わかった、ありがとう」

 

わたしは電話を切って一度深く深呼吸をし、がっくり肩を落として雑司ガイアの中を力なくふらふらさまよい歩くセニョールに声をかけた。

 

「エアーだ。エアーしかない」

 

わたしの言葉にセニョールが激しく動揺した。

 

「あの伝説のエアー足台を?!そ、それは危険すぎるぜ、だんな!」

 

「背に腹は代えられん。あとはカメラワークで何とかしてくれ。頼んだぞ、セニョール。俺の骨は生まれ育った荒川にでも撒いてくれ」

 

「だんな~~っ!!!」

 

こうして雑司ガイアに新たな伝説が生まれたのであった。

・・・以上です!編集長~!!